第1話 もみの木





かじかむような寒さが凍みる。
あと一週間で暦の変わる、慌しい師走の暮れである。
ここはトランから遥か北東。
雪深い山村は昼でも薄暗く、粉雪が絶えず舞う。
この地方は特に冬の冷え込みがきつい。
部屋の中まで寒波が侵食してくるようだ。
毛布を三枚重ねてもまだがちがちに冷たい両足を、ルックは手で強くさすった。
ルックたちは山あいの小さな村に滞在している。
村といっても民家が数軒と宿屋が一棟あるだけのこじんまりした集落だ。
山脈を北へ抜ける前に装備を確かめたり食料を補給するため立ち寄った村であるが、雪に阻まれ山越えならず、既に半月ほどを宿屋で過ごしている。
ルックのいる二階はすべて客室で、六室のうち一つを残して今は塞がっており、ルックたちと同じように雪で足止めされた旅人や行商が宿泊していた。
一階は道具屋や交易所も兼ねる宿泊受付とカウンターを合わせて三十席ほどの食堂である。
「寒い……」
ルックは身を縮こめて悪寒をやり過ごす。
隙間風が入っているのではなかろうか。
毛布から首だけ出した状態で、ルックは室内をぐるり見回した。
ツインの部屋はおおよそ十五畳。
入口に向かって左側は暖炉で、右側にシングルベッドが暖炉に足を向けて二つ並ぶ。壁も暖炉も煉瓦で作られており、ベッド脇のサイドボード、暖炉前のテーブルなど家具はすべて木製。テーブルの下は毛足の長いカーペットが敷かれている。
寒くさえなければ、非常に居心地の良い部屋である。
ルックは寒さの要因へ目を向けた。
正面は静物画が左右に二点と、中央に出窓だ。ガラスが二重になっている出窓の木枠は重厚な茶色で、外側に二センチ以上も雪の積もっているのが見て取れる。
窓枠が強い風が吹くたびかたかたと鳴った。
これが元凶だろう。
出窓の手前にはレースのカーテンが掛かり、外に張り出ているところへ三十センチ程度しかないもみの木の置物が置かれている。
赤いリボンと雪を模した綿でかわいらしく装飾された木は、出窓の向こうへ広がる雪一色の山々と相まってどことなく寒々しい。
カーテンがもっと分厚ければ外界の冷気を遮断できるかもしれないのに。
寒い。
ルックはぬくもらない両手に息をかけた。
体温がなかなか回復しないのはこの広い部屋に独りうずくまっているからであろうが、そもそも体温が低められた原因は己のずぼらなところにある。
今朝は雪に足を取られて転倒した老婆の家へ出張していた。
旅費を稼ぐために、ルックたちは「医者」の触れ込みで村へ入っているのだ。
膝と腕の擦り傷をすぐ癒し、ついでに再発防止を期して玄関付近だけ風で雪を吹き飛ばしておいた。
小さな村ほど医者がいないからルックたちの存在は重宝される。
紋章術で治療するルックは外科中心、何でも器用なあいつは内科兼薬局。
村を訪れてほぼ連日、やれ指を切っただの腹が痛いだのと細かい仕事に与った。
今日のルック担当分は老婆の一件しかないため身軽な服装で出張したのだが、宿屋から五百メートルほどの距離とはいえ、この雪の中いつも通りの服装で良いわけがない。
ルックの体はすっかり冷え切ってしまったのである。
暖炉が部屋をぬくめるにはまだ時間がかかる。
隣のベッドは冷たいままだ。
(早く、戻らないかな……)
ルックは己の白い息を見上げた。
耳を澄ます。
足音の来るのを、ひたすら待った。







クリスマスお題、第1話です。
もはやパラレル寸前です…。

20051213