君がいたから、乗り越えられたのかも知れない。
解放戦争で多くのものを失った。
失った魂が己の宿す紋章の内に有ると知って、さらなる喪失感に苛まれた。
ソウルイーターが愛しきものたちの魂を縛り付ける牢獄なら、俺はさしずめ残忍な牢番だろうか。
その生命を傷つける力に変えて、その思いを老ゆることのない生命に変えて。
死神の鎌の如き鋭利さで、近付く首は構わず刎ねてゆくのだろうか。
親友の、父の、安らかな顔を思い出す。
紋章を手放して、初めて訪れた眠り。
安心だと笑った、憑き物が落ちたような朗らかさ。
俺はこれから、幾度罪を犯せばいい。
俺を招く際限のない暗闇の輪から救い上げてくれたのは、こまっしゃくれた小さな風の眷属だった。
君はひととの触れ合い方が分からずに、いつもひとりで凛と立っていた。
風に柔らかく揺れる法衣と髪、揺らぎもせず決然と立ち続ける背中に、いっそ神々しいほどの眩さを見、目を奪われる己に慄然とした。
君のように強く、潔く、志を貫く人間になりたい。
君の瞳は、忘れかけていたあの日の決意を思い出させた。
親友のような孤児を増やしたくない。
親友のような枯れた瞳をこれ以上増やしてはならない。
俺は、この国の未来を救うために戦おう。
君の真似をして少し遠くを見据えるようにしたら、存在感がある、華がある、と周囲に礼讃された。
次第に英雄と呼ばれ、神の具現と崇められる。
周囲の期待に潰されそうな時もないわけではなかったが、そんなものは君の背中を思い浮かべればすぐに雲散霧消した。
君に釣り合うくらい大人になるから。
君は、その透徹した翡翠で俺を見ていて。
俺から目が反らせないように、してあげる。
三年ぶりに再会した君は、より凛呼たる澄明な光を纏っていた。
ソウルイーターに怯えて三年間君から逃げていた俺は、頭蓋に鉄槌を下されたようだった。
こんな紋章ひとつを言い訳にして君と別れ、君のことを遠くから想って自己満足に酔っていた、浅はかな利己心を照射されたのだ。
そう、君を想っていたんだ。
三年間も離れて、やっと気が付いた。
今も親友の安らかな顔を思い出す。
紋章を手放して、初めて訪れた眠り。
紋章に喰われて、初めて見せた安堵。
そして今も誘われる。
俺もいつかは、あんな顔で死ねるだろうか。
君の瞳が、俺を現世に留める唯一の枷となる。
君を守りたい。
君と生きていたい。
君のためなら、俺はいくらでも強くなろう。
遠征に疲れて眠る君の、髪にそっと触れた。
火のはぜる音と、草原の匂い。
夜空には満天の星。
君の翡翠が見たくて、ゆるゆるとこめかみに右手を伸ばす。
触れても、いいだろうか。
この呪われた手でも、君を守れるのなら。
君とともに悠久の時を生きることができるなら。
俺は、君のために戦おう。
そっと、瞼に触れた。
想いが溢れて、雫になった。