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子供の頃の思い出なんぞ、もうたったひとつっきりしか残っていない。
初めて外へ出た。
抜け出した。
麗らかに春めく京の都。
ようやく訪れた平安の世に喜び満ちて咲き誇る幾千もの桜によって、見上げる空すべてが何とも不思議な淡い色彩に支配されていた。
女どもが着やる衣よりなお紅く、それでいて女どもの被る面の皮よりなお白い。
これぞ桃色。
そして桜の下で泣く君は、
桜よりもなお白い肌を朱に染めて、
深みのある碧、透き通る蒼、眼光するどく、俺の内まで突き刺した。
太平は、腐敗という澱を呼び起こす。
君が言うのはおよそ童に似つかわしくない厭世論だ。
御上が肘掛に凭れて振るう采配はこんな子童へその手皺を寄せている。
それはすなわち俺の責任。
俺の血筋の、責任だ。
だから俺は、こう言ったのだ。
干支の巡るまでに……この日の本を変革しよう。
まだ俺の父君が今の俺程度――従四位上、頭弁であった頃の、幼い口約束である。