コンコン、と遠慮のないノックが鳴る。
耳には入ったけれど、生憎読書中に邪魔を許す趣味はない。
「ルックー?入るよ」
聞こえた声がティル・マクドールの声だったことで、止める事は無理だと悟った。
「あ、居た居た。返事くらいすればいいじゃないか」
ふと、僕が居ない時もこうして部屋に入ってるのだろうか、と素朴な疑問がわく。
別に部屋に変な物は何もないけれど、留守中に中に入られることにいい気はしない…あんたでも。
「…で。何さ」
「リオウから伝言。明日早いけどよろしくってさ。どうやら今回の軍主はみんなの事を気にかける良い軍主様みたいだね」
にこり、とその整った顔で微笑みを返され、そのまま定位置であるかのように僕のベッドの上に座った。
「それだけ?もう用ないなら出てって」
「用がなきゃ、出ていかないといけないか?」
「…」
聞き慣れたあんたの物言い。
返事にはいつまでたっても慣れることができない。
「…別に用があるわけじゃないけど、出ていかない」
僕が返事につまると少し間をおいてあんたが口を開いた。
しん、とした室内に凛とした声が響く。
「何で」
本から顔をあげずに問うた。
「最近ルックと会えてなかったし。喋るのも久しぶりじゃないか?俺は結構寂しかったんだけど」
あぁ、あんたは僕の言葉を待ってるのか。
「…さぁね」
否。待ってるのではない。引き出そうとしている。
「ルック。ねぇ、こっち向いて」
あんたのそれはお願いじゃないんだ。
「…」
…僕はその言葉を断れないから。
軽く顔を向けると、いつの間にそんな近くに居たのか、ふわりと頭から抱きとめられた。
「何か…あったの」
あんたがこんな風に甘えるなんて珍しい。
「ルックが俺より本に興味があるみたいで悔しかった」
クク、と楽しそうに喉で笑う振動が伝わる。
「…俺はルックとこうして色々話したいんだけど、ルックは違うの?」
毒入りの林檎を食べたみたい。
あんたの言葉で魔法にかかる。
でもそれは戒めじゃなくて。
「ルック。聞いてる?」
「煩いよ、聞いてるってば」
きゅ、とあんたの服をつかんだ。
これを返事としてとっといて。
あんたに聞かれたら、そりゃ、うんかううん位は言ってあげる
すき
くらい言ってあげる
あんたがそれで満足するんなら、言ってあげる
だけど、いわない
あんたが僕の大半を占めているだなんて、そんな当たり前の甘い台詞は死んでも、言わない。
アトガキ
夕凪大地様の管理人さん、ヒナ様に捧げます。
お誕生日祝いの坊ルク小説。
こんなへちょいブツですみません!
よろしければお持ち帰りくださいませ。
小鳥遊 要