愛は降り積もるもの





寒い冬だった。今年は大雪が降るだろうと言われていた通り、絶えず降る雪が地面を覆い隠して白く染め上げている。

「寒!」
「ご苦労様。大分積もってただろう?」
「凄かったです。結構体力いるんですね…」
「ああ。いつもはこんなに酷くはならないんだけどな。そうだ、ヤナギ、なんなら一冬中いるか?」
居候は働かなければならない。唇の端を吊り上げるシオンの言葉にうっかり頷いたが最後、一冬雪かきに駆り出され続けるのだ。ヤナギは力を込めて、はっきりと断った。
「いや、結構です」
「そうか?楽が出来ると思ったのに」
「しんこ…っと、ほら、自分のとこ放っておくわけにもいかないでしょう?…あ、ルックー、雪かき終わったから!」
台所から顔を覗かせるルックに気付いて慌てて違う言葉にすりかえてから、与えられた仕事を完遂したことを報告する。
新婚生活を邪魔するわけには、なんて聞かれたら即座に切り裂きが飛んでくる。今の状態で突風に吹かれれば間違いなく風邪をひくのだから、そんな自殺行為はご免だ。
「そう。お湯沸いてるから、風邪ひきたくないなら入れば」
ぽたぽたと水滴が落ちた床を見て一瞬眉根を寄せたルックは、シオンをちらりと見て、すぐに台所に戻っていった。
入ってきたら。苦笑したシオンが立ち上がり、ルックの後を追う。
もうすぐ出来上がるのだろう。グレミオ直伝の特製シチューが。
「いってきまーす!急いで出るから!残しておいてよ!」

面倒だといって一向に料理をしようとしなかったルックがご飯を作っている。
意外なほどのレパートーリーの数々は、グレッグミンスターでマクドール邸の料理人や宿屋の女将にせっせと仕込まれていたらしいというから面白い。
ちなみにその腕はというと、姉の殺人的な手料理と比べると涙が出てしまうくらい。
ルックとナナミの何が違うのだろう。
愛が篭っているのはきっとどちらも同じ。なら、味覚の問題だろうか。

「うわ、愛だって」
愛、と自然と考えていた自分に気付いて思わず声に出すと、音は反響して漂った。
でも、そう、愛はあるのだ。
例えば、視線だけで不足なく通じる、2人の生活に根付いた些細なやり取りだとか。
浴槽に溜められたお湯も、普段雪かきをして戻ってくるシオンが風邪をひかないように。
誰の目にも分かりやすく在る派手さはないけれど、それは、芯から温めてくれるような心地良さを分けてくれる。
何故なのだろう、とヤナギは思う。
喧嘩したりすれ違ったり、かと思えば甘えてみたり拗ねてみたり。毎回とは言わないけれど、結構な頻度で周囲を巻き込んで展開しては収束する。
付き合いの長い分だけ、巻き込まれて被害を受けてきたにもかかわらず、こうして関わりを持ち続けていこうと思うくらいには、離れがたいし、その側は心地良い。
2人の互いを想う気持ちだとか、それで完結して閉じてしまわないところだとか。
個人個人を好ましく思っているから、ということも大きいけれど。


この心地良さは、2人が長い時間を積み重ねて、ゆっくりゆっくり、大事に育ててきた確かなものだから得られるのだろうか。
難しいな、と思う。そんな恋も愛も、ヤナギにはまだ遠かった。
でも、きっと落ちてしまえば難しさなんて気にならなくなるのに違いない。
そうして大事に育んでいけるのなら、きっといつの間にか愛は降り積もっていくのだ。


しんしんと降り続ける、この、雪のように。






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大変お待たせしました!
のですが、ヤナギと甘々が競り合った挙句、ヤナギ>甘味成分。べ、べたあま……
しかもヤナギさん、別人のように恥ずかしい人になりました。何だか恋に恋する少年のような。とても恥ずかしい。

あの、期待外れもいいとこだ!といった類の抗議は受け付けていますので、遠慮なくどうぞ。がんばります。






ご恵贈:午睡さま→


坊ルクやスパツナやグラ刹を熱く語り合う仲である変態ホモスキー香夜さま(笑)がカウンタ3万ヒット記念にアンケートをなさってたので、調子に乗ってリクエストをさせていただいちゃいました。
ベタ甘な坊ルクか2主ってリクエストしたんだけどベタ甘な坊ルク+2主にしてくださった!
あざーす!
私はこちらさまの2主がもうほんとに大好きなんです。
かわいさとかっこよさ、いい子ちゃんと問題児の兼ね合いがまさに絶妙なバランス。
坊ルクの甘さ度合いが最初目に入らなかったくらい2主がめちゃくちゃ愛しくて、ずっとよしよししてました。
香夜さま3万打おめでとうございます、今後ともどうぞ変態語りの相手してやってくださいませ!

20090321