死神ルックその後 総集編







 僕は死神だったらしい。
「信じると思う? そんな妄想」
「ルックがそれを言うか……ふふふ」
 気持ち悪く笑うアスフェルを僕はぎろりと睨み付ける。口を閉じたまま笑いつつ、アスフェルが僕をかいぐり撫でる。僕は嫌がっているふりをするためにじたばた暴れて払い除ける。ここ最近の定番だ。
 僕がこいつに出会ったのは、僕が何度目かに家出した七歳の四月下旬だった。こいつときたら警官のくせに僕を親元あるいは児童養護施設へ送りつけようとせず、僕を自分の手元で養い始めたのだ。家裁にも児童相談所にもあっさり了承させた手腕は目を瞠るほど鮮やかで、給料アップのためと今年警部に昇任したのもノンキャリアでは異例の速さだったらしい。だが本人は昇給後の手取りを見るなりこれ以上稼ぐ必要がなさそうだからと実にのんびり働いている。
 そして僕は、アスフェルの給料と里親委託費によって高校へ通わせてもらっていた。トップクラスの公立進学校で、毎日零限から七限までみっちり授業、土曜日も朝から夕方まで補習という、勉強しかしないでいい生活だ。これがどれほどありがたいことか、僕は思ってもなかなかアスフェルに伝えられない。彼の好意へぐずぐず甘えてしまっている。
「それにその話、耳にたこができるほど聞いたよ。死神だった僕があんたの命を救ったんでしょ。あんた毎年この時期になると決まってその話ばっかり繰り返すんだから」
「十二月になるとね。十七年前を思い出さずにいられないんだ」
「僕はいい加減聞き飽きたの」
 アスフェルは僕を背中から柔らかく抱き締めてきた。僕の気持ちなんか知りもしないで、またウエストが大きくなったと臍を揉みつつ喜んでいる。僕が太るのが嬉しいらしい。今でこそ標準よりやや細身くらいだが、昔はがりがりに痩せていたうえ今もたくさん食べる方ではないから細いと心配なのだろう。確かにアスフェルと出会った時は栄養失調寸前だった。
 アスフェルは僕ごと敷きっ放しの煎餅布団に寝転がる。数年前に六畳一間のボロアパートから2DKのボロマンションへ引っ越したものの、それまでの習慣がまったく抜けずに二人とも同じ一つの部屋で生活しているのだ。ダイニングキッチンが僕たち二人の居間兼食堂兼寝室で、残る狭い二部屋は衣類等の収納家具と本棚を押し込めている。
「――来年、言おうと思っていたんだけれど」
「……何?」
 アスフェルが突然起き上がり、僕の頭を膝に乗せながらひどく真剣な声を出した。
「里親が里子を養育するのは原則として満十八歳までなんだ。二十歳まで延長することはできるけれど」
「うん、知ってる」
「それで……ルックの気持ちを確認したくて……その、……ええと」
 アスフェルは歯切れが悪かった。でも次に何を問われるか僕は重々承知している。そして答えられないことも。
 僕はアスフェルを好きなのだろうか。それも育ての親として好きなのか、もっと別の感情なのか。僕の中でその境界を見極めないことには是とも非とも返事ができない。けれど見極めるのが怖い。だってその結果、僕はアスフェルが僕に対して抱くのと同じ気持ちじゃないかもしれない。そしたらこれ以上アスフェルと一緒にいられないかもしれないじゃないか。やっと手に入れたこの居場所、僕を救ってくれた手のひらを、崩したくないから曖昧なままにしておきたいんだ。一方的に守られ庇護され愛しまれ、こうやってじゃれあったりたまに喧嘩したりしながら毎日晩御飯を一緒に食べる、嘘みたいに穏やかな日々。何百年も前から恋焦がれていた――何百年、も、前? 僕は今何を。
「俺はルックを愛している。ルックが子供でも、大人になっても、死神であっても変わらないよ。俺はルックといつまでも共に暮らしたい」
 愛している、とアスフェルが告げるのを僕は久しぶりに聞いた。アスフェルはこの数ヶ月間、あえてその言葉を使わなかった。親子の距離を置こうとしているようだったのだ。
「もちろん、ルックは俺を恋愛の対象としなくていい。親代わり、兄代わりでも、友としてでも、もしくは単なる同居人でも構わない」
 アスフェルがどんどん遠ざかるような錯覚がした。アスフェルは自分の願望からどんどん遠ざかっている。地平線の端と端でぎりぎりお互いの姿が見えていればそれでいいんだと、失いさえしなければ、と。最低限で譲歩するつもりなのだ。
「将来、ルックに好きな人ができて……その女性と、結婚、することになっても……週に一度でいいからここへ寄ってくれたら、忙しいなら電話でもいいから、たまに顔を出してくれたら、それで、それで……我慢、できるかは、正直なところまったく自信がないけれど……」
 アスフェルの声が消え入りそうに低くなる。
 我慢。そう、実は、僕はアスフェルにずっと我慢させている。僕とアスフェルはセックスどころかフレンチキスさえしたことがない。アスフェルはずっと僕をそういう目で見ているはずで、しかしずっと耐えているのだ。僕は知っていて、応えられなくて、十八歳差という年齢を武器にアスフェルの好意を自分のいいように使っている。
 僕はアスフェルの彷徨う瞳を膝枕されたまま見つめながら、九年前をぼんやり思い返していた。九年前の春にアスフェルへ拾われて、同年二学期から近くの小学校へ通えるよう転校手続きを取ってもらった、その時のことだ。
 アスフェルはその日、わざわざ有給を取ってきた。なのにわざわざ警官の制服を身に纏い、制帽を被って、担任の女性教諭に完璧な敬礼で挨拶をした。俺の息子です。アスフェルは一片の躊躇いも戸惑いもなく言ってのけた。僕はそれが、死ぬほど、気持ち悪かった。
 なぜ不快だったかを僕は今さら考えている。実の親に一度として言われたことがなかったから? アスフェルの中に女性教諭へ究極に誠実な第一印象を植え付けるあざとさを見て取ったから?
 ――僕は馬鹿だ。答えなんて、とっくに分かりきっている。
 出ている答えを認めるべきか、打ち消すべきか。僕が見極めかねているのはそこだ。
「僕はあんたの息子になりたかったんじゃない」
「……ル、ック?」
「シャー芯買ってくる」
 僕はがばりと暖かな居場所から身を起こした。アスフェルの膝は蕩けそうに心地よくて、僕を守る強固な揺りかごで、だからこそ僕は愚図る自身を引き剥がした。
 いつまでもアスフェルに甘えてちゃいけない。アスフェルのために答えを出してあげなくちゃいけない。サンダル突っかけて外に飛び出て、身の内からじわじわ湧いてきた震えに両腕を両手できつく抱える。
 死神だったら……こんな思いはせずに済んだのだろうか。







 僕は死神だったらしい。
 そして死神は、移動するのに徒歩も乗り物も使わないらしい。つまりテレポーテーションだ。……信じるわけがないけれど。現に僕は今両足を使って走っている。
 コンビニの前まで走ったところで、僕はようやく財布を持っていないことに気が付いた。ついでに上着も着ていない。昼前とはいえ十二月、室内用のトレーナーでは冷たい風を防ぎ切れず、僕は立ち止まって息を整えながら汗ばむ体の汗を凍らせる寒さにぞっと身震いをした。
(震えるところが違うんだ)
 Uターンしながら僕は思う。真冬の寒さに震える時は体の後ろの方が震える。背中や腕の外側が。けれどさっきまで僕の体は真ん中あたりが震えていた。僕はこっそり、傷ついていたのだ。
(結婚、……僕が)
 あり得ない。アスフェルの語る彼にとって最悪の未来は、百パーセントあり得ないと断言できる。僕は絶対に結婚しない。僕の実の両親を見れば理由はあり余るほどだ。何より生理的に気持ち悪い。誰か他人と家族になって一生つがいで過ごすなんて。
 だからアスフェルはこの点において最も安心してよかった。そして同じ点において、僕こそが最も怯えねばならなかったのだ。アスフェルが将来誰かと結婚しないとどうして自信満々に言い切れる? 僕を養子にし、僕のため良妻賢母となれる女性を見繕ってくることがないと、幸せな三人家族、あるいはそれ以上の人数になって僕に弟妹ができないと、どうして断言できるだろう。
 僕は今までそんなこと考えたこともなかった。アスフェルがくれるたくさんの愛情に文字通り溺れていたからだ。溺れて、信じきっていた。アスフェルは僕がどんな態度を取っても僕以外には目もくれない。傲慢にもそう信じていた。
「財布もコートも置いて出て行って、何を買う気だったんだ、ルック?」
 僕の心臓が飛び跳ねた。背後から好きで好きで仕方ない声が降ってきた。同時に肩へぶかぶかの上着を被される。アスフェルのものだ。僕のと似たようなコートなのにすぐアスフェルのものと見分けが付いたのは香水の匂いがかすかに鼻をくすぐったから。たまに付けるだけなのに匂いがコートへ滲み込んでいる。
 アスフェルに抱き締められてるみたい。ほっとする。これが父親へ頼る安堵かそうじゃないのか、曖昧なままにしちゃいけないの?
「何でローソン。ファミマの方が近いだろう」
 アスフェルが問う。僕も聞きたい。何でアスフェルは僕がこっちのコンビニにいるって分かったんだろう。近い方を迂回したんじゃこんなに早く追いつかれないからアスフェルはハナからこっちへ向かったことになる。
「……ローソンの方が、あんまんがおいしいから」
「なら、俺は焼きそばまんな」
「あれは駄目、焼きそばロールの方が安いし量も、――ッ」
 他愛ないやり取りのどさくさに紛れて振り向いた、途端に眩しい笑顔が僕を撃った。非番だからって髭剃りを当てていないアスフェルの顎は無精髭が数本伸びている。老けた、というと僕が幻滅したみたいだがその逆で、僕のわがままを全部受け止めてくれる老成した趣があった。
 好きなんだ。
 だから、僕は、アスフェルから離れなければならないと今こそはっきり意識した。僕はアスフェルが永遠に僕だけを見てくれると思い込んでいる。そしてそれは多分真実だ。僕がいる限り、アスフェルは僕のことしか見ない。けど僕は十八歳も年下だし経済力もバックボーンもないし、そもそも彼と異性ですらない。アスフェルと恋愛ごっこを楽しむにはどんな条件も満たしていないのだ。
「ルックは焼きそばロールが好きなんだ?」
「……キライ」
「たまごロールの方がいいか。悪いな、俺が夜勤だとロクなものを食べさせてあげられてない」
「僕は別に気にしてなんか、コンビニご飯ってけっこうおいしいし、めんどくさいだけでその気になれば一人分自炊すればいいんだし、……アスフェル……」
 僕は唇を噛んで彼を見上げた。アスフェルがうんうんと頷いて笑った。勝手に飛び出した僕を怒らない。どうでもいい話だって真面目に相手してくれる。いつも僕が過不足ないかと気を配り、僕にいくらイライラさせられたとしても職場の鬱憤、キャリアから受ける謂れなき僻みや中傷も、決して僕の前では出さない。
 どうしてこの人は僕を好いてくれたんだろう。僕が死神だったから? もう死神じゃなくなったのに?
 もしかしたら十七年も前の良い思い出に縛られているだけかもしれないと、思い至るのは絶望の縁に自ら立ったも同然だった。







 僕は死神だったらしい。
 けれど仮にも神と名の付くものだったなら、もう少し超然としていられるんじゃなかろうか。僕はアスフェルとコンビニへ入り、シャーペンの芯と二人分の昼食を買って、でも二人きりの家へ帰る気になれず何だかんだと理由をつけてそのまま雑誌を立ち読みしている。週刊誌三冊、次は地域情報誌。だが活字なんてひとつも頭に入ってこない。かっこ悪いし情けないしでぐだぐだだ。
 僕を追ってきたアスフェルも隣でナンクロを捲っていた。ああしてぱらぱら捲りながら半分以上のページはその場で解いているのだ。少しだけ細めた黒目がちな目、眼球が素早く動いている。集中力の高まりとともに表情はどこか冷たげになってぞくっとするほど迫力がある。僕はそれを気付かれないよう盗み見る。
 なのにアスフェルと目が合った。僕の視線に気付かれたのだ。アスフェルが僕をやんわり見下ろし、帰るか、と目で聞いてくる。頷きながら僕は俯く。
「……何で分かるんだろう」
「ナンクロ? ひらめきだな、慣れれば文字数だけである程度単語の察しが付く」
「……あっそ」
 僕が呟いたのはコンビニを出てすぐだった。トレーナーにスラックス、サンダルを履いた上からぶかぶかのトレンチコートを羽織る僕はちょっと不審者な気がする。遠目にもカジュアル系ファッション誌に載っていそうなアスフェルと並んで歩けば余計にだ。けれどアスフェルは意にも介しない様子である。
(……ナンクロの話じゃないし、っていうかほんと、クイズ全般に目がないんだからこのおっさんは……)
「――俺がおっさん臭く見えたか?」
「ぅえッ」
「ルック、動揺しすぎ」
「ああああんたが僕の思考を勝手に読むからじゃない!」
 僕は声を裏返らせて、くすくすアスフェルに笑われた。
 何でアスフェルは僕の言いたいことを言わないうちから察するんだろう。そして僕も、何でアスフェルの目を見ただけで彼の問いが分かったんだろう。僕はアスフェルから顔を逸らしつつ考える。
 アスフェルについてはあの千里眼もかくやという洞察力を知っている者なら誰でもだいたい納得がいくが、人間の機微には疎い方である僕がどうしてアスフェルのノンバーバルコミュニケーションは分かるんだろう。僕はアスフェルのコートを胸元で掻き合わせる。
 僕はナンクロを取っ掛かりにして矢継ぎ早に言葉を紡いだ。今沈黙が訪れると耐えられなくなる自覚があったのだ。
「ひらめきって例えば、○ウジ○ウ、を見たとして」
 まるうじまるう、と僕は単調に発音したのだがアスフェルには通じたらしい。
「コウジョウかユウジョウか、またはソウジュウ、モウジュウかもしれないでしょ。他にもヨウジホウとかソウジトウとか。後半ならそこに重なってる別の語句から特定できるけど、最初のうちは全部スカスカじゃない」
 ナンクロとは新聞等に載っているような普通のクロスワードから問題文を抜いたものだ。何のカギもなくマスを埋めていかねばならない。ヒントになるのはそれぞれのマス目に小さく振られた数字だけで、同じ数字には同じ一音が入る。1と書かれたマス目のうち一つがアなら他のマス目もすべてアになる。いくつかの文字がすでに埋めてあるのは初心者向けで、一般的には同じ一音を指す数字以外手がかりがない。
 アスフェルはコンビニの袋を左手に持ち替えた。二人の間に袋が挟まれる状態になる。すぐ右手に持ち替えて、また左手に、を都合三度繰り返す。そうやって考えているのだろう。
「思いついたものを全部試す時もあるけれど……たいていは、候補を羅列する前に、正答一つだけが思い浮かんでいるな。何となくひらめくんだ。空欄に何となく文字が見える」
「何となくって何」
「……何となくは……何となく。ひらめきに理屈はないよ。ぱっと浮かぶんだ。そういうものだろう、直感とは」
 アスフェルは結局説明らしい説明をしてくれない。その気になれば誰よりも理論的なプロセスで講釈することもできるのに、思い立ったら何となく行動してしまうのがアスフェルだ。思い立った時にはすでにそれ以外の選択肢を無意識に吟味し終えているのだろう。
「俺の直感は滅多に外れたことがないんだ。十七年前も」
 またその話。僕はうんざり首を振る。
 僕はおそらく僕に嫉妬を覚えていた。僕がまだ生まれてもない頃からアスフェルの心を独占している僕似の悲運な死神に。消えた死神はアスフェルの中でどんどん美化され、輝いて、現実の僕を崖っぷちまで追い詰める。
「……僕を愛してるってさんざん言うのも、直感?」
 嫌味にも限度がある。でも止まらない。アスフェルの気持ちを知ってるくせに、僕はアスフェルを小馬鹿にした口調で非難する。
「何となくそんな気がするだけ? ここが好きとか理屈はないの? じゃあその直感が外れだったら本当に好きな人が現れてやっと外れたなってことに気付くの?」
「ルック、何を馬鹿な」
「……もし僕が死神ルックとは別人だって判明したら……あんたはどっちを選ぶのさ……」
 僕は馬鹿だ。見逃せなかった。アスフェルが一瞬答えに詰まった顔をするのを。
 アスフェルは、ルック、と言いかける。けどそれじゃどっちのルックか分からない。それにアスフェルは言いかけただけで言わないじゃないか。自分でもきっと考えたのだ、ルックはどっちのルックのことか。そして答えがすぐに出ない。いや、出たのかも。今あんたの目の前にいる方のルックにとって具合の悪い結論が。
 気まずそうに目を泳がせるアスフェルから目を離せないまま、すぐにテレポートで掻き消えられない無能な自分を僕は憎んだ。







 僕は死神だったらしい。
 むしろ今、今すぐ死神に舞い戻って大鎌を振りかざしたい。死神の鎌でこの息詰まる空間を僕ごと切り裂いてしまえ。
 一度視線を落としたが最後、アスフェルと目を合わせられない。口も利けない。僕は足元がぐらぐら歪むのを感じている。
 僕はアスフェルの気持ちを信じきっている、と思っていた。けれどそれは嘘だった。ずっと疑いを抱いていた。いつ裏切られる日がくるだろうと警戒の目をらんらん光らせ続けていたのだ。僕と死神とどっちを選ぶか、なんて、アスフェルを少しでも信じていたらとてもじゃないが尋ねやしない。
 アスフェルを好きになればなるほど僕は認めまいとしていた。認めてしまったら最後、アスフェルに捨てられた時の傷口がもっとひどくなる。縫えないほど捩れ血がこびり付き細菌に毒されて醜く膿んで、僕は喪失という痛みのあまりぱたんと倒れ伏し死ぬかもしれない。そんな生易しいものじゃない。指の叉を割かれ手の甲、腕、肩を二分割、これまでアスフェルに触れられたことのある体表すべてが剥ぎ取られるほど痛いだろう。そうして剥かれて残った僕はもはや僕という自我ではない。抜け殻だ。自死さえできず痛みにのた打ち回るだけの。
 だから僕は、アスフェルへたくさんの情を与えられっ放しでいた。少しでも返せば次はそれに対して見返りが欲しくなる。繰り返して深みに嵌る。もともと何のためにお返しを返していたか見失う。それが恐ろしかったのだ。
 それに、もし返してもらえなかったり返してもらう量がいつもより少なかったりしたらどうなるか。きっと僕はアスフェルに裏切られたと感じるだろう。飽きられた、捨てられた、見限られた。僕は今生のみならず前世でもそれらを身近に味わってきたんだ。いっそ親近感がわくほどに。
 結局、臆病な僕が今までどうしていたかというと、急にもらえなくなってもあきらめがつくよう、裏切られても悲しくないよう、努めてアスフェルの言動に無反応を返すのみだった。そうすることで僕はアスフェルに対しちっぽけな優位を保っていたのだ。
 僕は、最低だ。
 マンションの前まで二人で歩いて、アスフェルはポケットから鍵を取り出しながらエレベーターのボタンを押した。こんな時に限ってエレベーターは最上階にある。まるで最後の長考を与えてくれているようだ。僕に決意を、あるいは翻意を促す時間。だが腹が決まらないうちにエレベーターは一階へ降りてきてしまってドアを開き、アスフェルはいつも通りドアを開くボタンを押しながら僕を先に乗るよう目だけで促してくれる。
 ――ここまでだ。混乱し焦りながら僕はアスフェルを見上げた。
「乗らない」
 言い放つ。アスフェルが柔らかく首を傾げる。どうしたの。声にされずとも目を見ただけで言っていることが嫌でも分かる。整理しきらない頭からぽろぽろ言葉が勝手に落ちる。
「もう、あんたの家には帰らない。本当の両親のところへ行く」
「……ル、」
「僕はあんたと一緒にいるべきじゃないんだ。だってあんたの人生は僕のせいで歪んでる。あんたは僕のことしか見ないし、僕が息子になりたいって言っても嬉々として籍を入れるんでしょ。それに」
 アスフェルの顔が強張っている。ごめんね。僕のせいで。
「――それに、あんたが見てるのは僕じゃない」
 石を飲み込んだようだった。喉頭が横隔膜をたわませて腹へ落ち込み、石の重みで足が地面へめり込みそうだ。自分で言っておきながらこれほど残酷に僕の肺腑を抉る言葉があるだろうか。
 そうだ、くどくど余計なことを考えては打ち消していたけれど、僕がいちばん怖かったのはこれだったんだ。アスフェルの視線が僕をすり抜けてかつての僕に注がれていたら。僕はそれを危惧するあまりアスフェルを信じることができず、信じてあげられない申し訳なさから逃れたくて自分の気持ちに蓋をしていた。好きなのに。愛したいのに。
 アスフェルは僕と似たような表情を黒耀の瞳へ虚ろに宿した。でも似てない。この顔は、僕の方がよく知っている。鏡で、水面で、窓ガラスでも、嫌というほど何度も見てきた。
 ――裏切られた時の顔だ。
「……ルック……」
 壊れそうに儚く呼ばれる。
 取り返しのつかないことをしてしまった。僕はようやく気が付いた。僕は両手で口を覆った。思わず一歩後退っていた。アスフェルは呟き、僕を戸籍上の名で言い直そうとしたか唇でア段の形を作りかけ、途中でしゅんと力なく閉ざす。
 足元にざらついた音がした。目線を落とすのも億劫だ。だがぐらぐらと目玉を動かす。付け根の軋む感覚がする。ああ、鍵だ。アスフェルが手から落としたのだ。
 僕はのろのろ上体を屈めた。鍵を拾って、アスフェルに渡して、それで終わりにしようと思った。さよならだ。実の親のところへ行くほど嫌なものはないけれど、あんたをこれ以上裏切るよりはずっといい。
 家の鍵と原付の鍵と僕が小学生の時に修学旅行のお土産にあげた招き猫のキーホルダー、あんたまだこれ付けてるの。何で。
「――来い」
 キーホルダーを見つめていたら身をかわすのが少し遅れて、僕はアスフェルにものすごい力でエレベーターへ押し込まれた。ドアが閉められる。上昇する。
 死神だってこんな恐怖は知らないだろう。僕の腕を折れそうなほど握り締めてエレベーターのパネルを見ているアスフェルの、冷たく淀んだ横顔から覚える恐怖。彼の今考えていることが……僕には初めて、分からなかった。







 僕は死神だったらしい。
 本当は薄々知っていた。僕には他の人間に存在しない感覚があるみたいだし、アスフェルのこともそれが誰とは分からないまま何かをぼんやり覚えていた。それら含めて変な現象は僕が元死神だった所以なのかとむしろ素直に納得できる。口では馬鹿にしてたけど。
 そして今は死神ではない。僕は地に足の着いた、ただの、人間だ。
 アスフェルは家のドアを開けるなり手のひらを僕に振り上げた。昔の僕なら痛みを想定して身を硬くしただろうけど、もう何年もそんな目に遭ってない僕は無防備そのものでアスフェルの腕を見るだけだった。いつの間にか、日常から虐待がはるかに遠ざかっていたのだ。今頃気付いたってもう遅い。
 ひゅんと風を切って振り下ろされたアスフェルの手は、しかし僕をぶたなかった。代わりに僕の両頬を、軽く音が鳴るほど勢いよく挟み込む。上向かされる。眼底まで覗かれる。
「――矛盾は、見ないふりか」
「僕が? どこに矛盾があるの」
 僕はアスフェルを全力で睨み付ける。虚勢だけどどんどんアスフェルが嫌いになれるような気がする。嫌いだったって思い込めば離れるのも辛くないじゃないか。僕はアスフェルの冷えた瞳を同じように視線で刺す。
「俺の人生が歪んでいると言った。俺がルックを恋愛対象にしているから。けれど俺の息子にはなりたくない。俺が他人に心を寄せたと立腹している。……滅茶苦茶だ」
 アスフェルはひとつ溜息を吐いた。遣る瀬無く左右に首を振る。
「俺の人生が本当の意味で歪むのは、ルックを養子にしてからだろう? 今なら公務に燃える警官のボランティア精神に満ちた私生活と説明できても、以降は善意の範疇を超える」
「今までだって! もっと最初から」
「ルックを好きになったことがそもそもの歪みだと思うなら、それはルックのせいじゃない。俺が望んだ結末だ。俺の人生設計へ勝手に組み込まれたルックが俺を厭いこそすれ、どうして俺がルックを恨むことになる?」
「直感が外れてたら恨むでしょ」
「恨まない」
「恨むよ。九年間をドブに捨ててしまったって」
「……話にならない」
 アスフェルは僕の首根っこを掴むようにして嫌がる僕を無理矢理部屋へ引きずり込んだ。僕のサンダルが玄関に一つと上がり框に一つずつ脱げて転がる。部屋の電気を点けなかったら昼間なのに薄暗く、僕が床に落ちていたティッシュの箱へ突っ掛かったのを機に僕とアスフェルはもつれるようにして煎餅布団へ座り込んだ。布団はしんと冷えている。
 僕は咽喉が熱くなった。泣きそうだった。こうやって布団へ二人でぎゅうぎゅうに座って、間近にアスフェルの顔を見たらもう駄目だ。ついさっきまでアスフェルから離れようと思ってたのが嘘のよう。僕を見つめる黒い瞳も切なく寄せられた額の皺も、すべてが僕だけのものならいいのに。一瞬本気でそう思う。
「我慢していた俺が間抜けだったんだな。ルックを傷付けるのが怖くて――いや、言い訳か。俺はルックに拒まれるのが怖かったんだ」
 アスフェルが小さく笑みを刷いた。自嘲の笑みだ。そんな顔、してほしくない。僕のせいで。僕のせいで。僕がいなければ。
「そうじゃない。ルックは悪くない」
「……また……僕の思考を勝手に読んだ……」
「好きな子の考えることがこれくらい分からなくてどうする」
「僕のこと好きじゃないかもしれないって、何であんたは疑わないの」
 アスフェルはまた溜息を吐いた。今度の溜息は深く息を吸うためだ。吸って、アスフェルはひどく丁寧に話し出す。
「最初は単なる直感だった。高潔そうな第一印象が好みで、その睨み方も手加減のなさが好みだった。けれど一緒に暮らし出すと、何もかもが目に留まるんだ。本を読みながら横髪を耳へ掛けるルック。肉じゃがなのに肉を食べないで彩りに添えたさやいんげんにばかり箸を伸ばすルック。俺の話にしょうがないねって大人びた相槌を打ってくれるルック、夜勤明けの俺へ濃い煎茶を淹れてくれるルック、靴擦れしても顔色ひとつ変えないで血まみれの靴下を夜中こっそり洗うルックも、俺は、毎日」
 アスフェルは軽くむせた。きっと涙を飲み込んだのだ。
「ある日ふと、ランドセルから給食袋を外しながらルックの寝顔を見下ろしていたら……急に息ができなくなった。ルックの立ち居振る舞い一挙手一投足、すべてが愛しくてならないと思い知ったんだ。何を見てもいちいちルックに惚れ直す。俺自身が俺を理解できなくなるくらい。――十八も年下の児童相手に淫らな欲望を抑えられず……ルックが俺にしてくれたらと願いながら自慰したよ。最低だ」
 述懐は僕に目を瞠らせた。アスフェルが僕の隣でおぞましい行為をしていたことじゃない。アスフェルがそれを我慢できなかったことだ。アスフェルの自制心がどれほど強固かを僕は一番知っている。そのアスフェルが欲望に負け、そしてそんなになるまで心から欲していた僕の前では片鱗さえ見せなかったのだ。
 僕は気付いていなかった。僕は、こんなにも、
(アスフェルの愛情に……包まれて生きてきたんだ……)
 どんな思いでいてくれたのか、僕には想像も付かない。自分の願いが叶わないだろうと諦めながら諦めきれないでいたアスフェルが、どうやって今まで平然とした顔で僕に接してくれていたか。無償の愛を、惜しみない愛を、養い親として完璧な肉親の情だけを僕に注いでくれていた。本当は僕を犯したかっただろう、でも我慢してくれていた。全部僕のためだ。アスフェルは愛情ひとつでここまでやってのけたのだ。
 察してはいたけどアスフェルの口から聞くとリアルすぎて身に沁みる。僕は眩暈に頭を左右へぐらぐらさせる。
「……同じだな。十七年前と」
 僕の首がぐら付くのを見、アスフェルは残念そうに呟いた。この期に及んでアスフェルはまたも死神の僕を持ち出してくる。僕が思わずむっとしたって仕方ない。
「死神は俺に死神を信じろと何度も言った。けれど実は逆だったんだ。彼が、俺を、信じられなかった。俺が彼を一目で好きになったことも、彼を失えば失意のどん底で嘆くことも。信じないまま消えたんだ」
 それが何。僕も同じだから死神と僕はイコールだって言いたいの。そんな些細なことを今さら証明したって何になる? アスフェルが「ルック」を愛する理由の確実な裏を取ったつもり?
「俺が同じだと思うのは、ルック。心通い合わない離別を俺が再び味わうことだよ」
 ――そっち!?
 自嘲したまま告げられて、僕はがんと頭を殴る衝撃を受けた。何なのあんた、結局僕とどうなりたいの。そうやって十七年前とおんなじように手放すの。失くして嘆いて僕が消えた川沿いを毎日毎日歩き回って、町中隈なくパトロールできるからって理由だけでわざと派出所勤めの長くなる高卒ノンキャリ警官になって。僕が猫の姿で蘇るかもしれないって思い立ったからあのボロアパートに引越したんでしょ。がらんとした家に山積みされてたキャットフード、近所の野良猫見るたび一つずつ開けたらしい空き缶、虚しく積み重なる年月をあんたはずっと無闇に足掻いて、だから。
 だから僕たちはもう一度出会えたのに。
 僕たちは同じことを……また、繰り返すつもりなの?
「……抱いて」
 僕は口走っていた。一歩踏み出さなきゃいけないのは僕だ。曖昧さを望み、結論を先延ばしにしていたのは僕。アスフェルの努力を無効にし続けていた間、アスフェルはずっと裏切られ続け我慢し続けていたんだ。僕はアスフェルの誠意を踏みにじってきた。
「怖かったんだ……あんたがいつか、僕を捨てるかもしれない……って……」
 僕は両手を目に押し当てた。声に出したら呆れるほどに明快だ。僕はアスフェルの気持ちを知っていて、僕も同じ気持ちで、でも怖かったからいろんな反例を持ち出してきては僕を迷わせる根拠に仕立て上げていた。
 僕は卑怯だ。
 だけどまだ怖い。あんたが僕を途中で放り出してしまうかもしれない。僕は両手の爪を立てる。額の皮膚ががりっと削られる音がする。
「自分を粗雑に扱うんじゃない。ルック」
「だって、こ、怖」
 ……たすけて……!
 僕はアスフェルに手を伸べた。アスフェルが僕を裏切ることなく助けてくれると初めて心の底から信じた。もし裏切られたら――ううん、ない。アスフェルは僕を裏切らない。それにもし万が一裏切られても、僕はそれでも、アスフェルのことが大好きだ。
 咽喉から悲鳴を絞り出した途端、アスフェルは僕を潰れそうなほど強く強く抱き締めた。あまりの強さに背筋がしなる。痛みすら。いつものアスフェルからは容易く感じ取れるはずの配慮や遠慮が欠けている。容赦がなくて身動きもできない。
 だけどどうして、痛みを伴う抱擁が……どうしようもなく懐かしいのか。右肩に掛かる頭の重みと生温く滲みる水分もまた、例えようなく懐かしかった。







 僕は前世で死神だった。
 死神の前は猫だった。さらに前は樹木、最初は木々を颯爽と吹き抜ける風だったらしい。死神の長に聞いたことだから本当か嘘かは分からない。風は砦のレンガ壁にぶち当たって消滅し、樹木はそこに戦没者用の墓場を作るため伐採されて焼き捨てられた、と。
「……今、思い出した……」
「風とは言い得て妙だな。俺も感じたことがあるよ、ルックの内に薫風を」
 アスフェルが僕の髪の毛をさらさら梳いて首肯する。信じてくれるんだ。改めて感嘆する僕だ。
 僕はアスフェルの胸板にぴったり手のひらと頬を寄せた。心臓の音が心地よくって、僕より高めの体温が素肌に安らぎをもたらしてくれる。ぬるま湯に浸かるようなふぅっと蕩ける穏やかさ。
 甘受して、目を閉じて、何て大切なんだろうと実感したら瞼の裏側がしっとり濡れた。力を入れてどうにか角膜に染み込ませる。耳をくすぐるアスフェルの声につられて顔を上げるまで。
「実体のない風にも生命が宿っているとは興味深い。アニミズムはまさに真理だったわけか」
「僕の、思い出した、っていう行為と、その記憶中に含まれる他者の発言をともに事実と見做すならね」
「それはルック、少なくとも現在のところ立証不可能なものだろう? ならば事実と見做すかどうかが焦点ではない」
「ややこしいこと言うね」
「見做すのではなく、信じるかどうか、だよ」
 腕を杖にしてこちらを見下ろすアスフェルにそっと微笑まれ、沈静化していた恥ずかしさの奔流が止める間もなく決壊した。僕は旋毛をアスフェルの胸にぐりぐり擦り付ける奇行に及ぶ。二人とも何も着てなくて暖房も入れてないのに布団一枚が暑くさえ感じるこの状況。僕とアスフェルの関係は、今までのそれとは根本から異なるものに羽化し変容を遂げたのだ。
 アスフェルが僕の頬をなぞる。僕はびくっと縮こまる。
「――我に返った?」
「僕……今からあんたにどんな顔すればいいの……」
「今まで通り、だと少し寂しいな」
「絶対無理」
「ああ、そうやって照れてくれたりする方がいい」
「……あんたって意外とサドだったんだ」
 僕はむくれる。だけど心は冷たい水へ脳を取り出して洗ったみたいにすっきりしていた。僕がアスフェルを好きで、アスフェルもそうなんだから、いったい何の問題が生じるだろう。僕はもう足を竦めなくていい。少なくともアスフェルが心変わりしたと断定できる時までは――そんな日、来ないと僕は信じることにしたんだ。
 まだ僕の頬を指先で弄びながら、アスフェルが奥歯にものの挟まった言い方をした。
「あの、な、ルック? き……昨日の話を蒸し返しても、怒らないか……?」
 昨日って何だっけ。ナンクロじゃないし、ああ、僕が十八歳になったら、って話か。
「もしもルックが望むなら……俺は、ルックと、養子縁組をしてもいい。と思っている」
「……ふぅん」
「その方が安心できるなら。お役所の紙切れ一枚でも、俺との間に繋がりのある方が……ルックがそうしたいなら……」
 後半がごにょごにょとくぐもって、僕は余計に苛立った。あんたまだそれ考えてたの。あんたがそうしたいならすればいいけど、僕のためってちょっとでも思ってるならとんだ考え違いだよ。もしかして、戸籍上からも実の両親を絶つべきだと勧めてくれているんだろうか。
 だが僕のすっきり晴れた脳は間もなく答えを導き出した。不安なのはアスフェルだ。紙切れ一枚でも何らかのよすがにならないものかと焦っているのだ。僕が逃げ出さないかと怯え、必死で怯懦を克服しようと試みて、安心できる材料を一つでも多く手元に集めたがっている。今までの僕がアスフェルをそうさせてしまったんだ。
 もう、大丈夫だよ。僕はアスフェルにちゃんと教えなければならない。
「あんた、いちばん最初、養子縁組前提じゃないって言ったじゃない。忘れてないよね」
「……ああ」
「なのに息子扱いするの?」
「……ルック……」
 アスフェルの瞳が頼りなく揺れ、どうすれば僕を繋ぎとめておけるかと悩む様子を浮き彫りにする。だから僕は宣言する。僕自身にも撥ね返る宣言を。
「十八になったらあんたとの里親里子関係はおしまいにする」
「――ッ」
「それで、そこからは」
 目を閉じて息を飲んだ。言わなきゃ。ちゃんと。
「アスフェル……、ほんとに、本当に……僕でいい……? 子供産めないし、お金も食うし、年も離れてて親子みたいだけど、でも、僕のこと息子じゃなくて……最初言ってくれてたみたいに……」
 目を見なきゃいけないと分かっていても瞼の抵抗は凄まじかった。だけど乗り越えて、眉間に皺を寄せながら唇をきつく噛んでいるアスフェルへようやくしっかり焦点を合わす。アスフェルは溢れそうになる何かをすんでのところで堪えるようだ。
 僕は、願いを口にした。
 ほとんど声が出なかった。閉め切ったまま朝を迎えた部屋にこもる情事の残り香になけなしの音も絡め取られた。アスフェルの胸板に寄せたままの手が一瞬戸外よりも冷える。嫌だ、と言われる可能性を追い出しきれてなかったから。でも僕は踏み出して、薄氷の上に立つ恐怖を下に大地がある確信へ変えるつもりで、アスフェルを見つめ返事を待つ。
 返事は分かりきっていたけど、聞けたらやっぱり安堵に四肢の先が震えた。



 僕は死神だった。
 でも今は人間だ。空も飛べないし、間違いもするし、そのたび傷付いて疑心の闇に囚われる。この世は不安なことだらけだ。
 だけどもし僕が消えた死神と一瞬でも対話できるなら、僕は今こそ、死神の僕にこう言おう。
 僕は死神だった僕を誇りに思っている。
 アスフェルを助けてくれた死神の僕に、アスフェルと巡り会えた奇跡に。僕は、心から感謝する。







ということで、死神シリーズ続編でした。
長々とお読みいただきまして本当にありがとうございます。
初エッチ編を書きたかっただけのこの話…。
さっさとエロシーンだけ書いて終わるつもりだったのに、この死神後ルックが普段のルックより無邪気というか馬鹿というか、書き出したらおもしろくなってきてしまってどんどん脱線してました。
そして肝心のエロをすっ飛ばしてまさかの朝チュンorz
どうしてもこの流れにエロを入れられなかった未熟者の私です。
立派なホモエロを書けるよう精進します(笑)
あ、作中にいくつかマイ設定が入り込んでます。
この話より先に書くはずだった続編で回収する予定の伏線です。
書けたらそのうち書いてみたいなぁと思ってるので、機会が巡って参りましたらまた死神シリーズでお会いしましょう。

20090609