救出譚





草原を走り通して辿り着いた場所は、瓦礫の山だった。


地鳴りは収まってきたようだ。
無残に倒壊した建造物を見やり、アスフェルは肩で息を整えながら辺りをつけた。
(紋章の波動から考えても……正面突破が最短か)
どうせ壊れているんだしと遠慮なく手前の壁からぶち破り、更なる崩落を招く前に駆け抜ける。
程なくぽっかりと空いた広間に出た。


広々とした空間は吹き抜けになっており、周囲の壁が崩れてはいるもののこれ以上崩壊に巻き込まれる危険はないようだ。
紋章の残滓が色濃く漂い、ここで戦闘のあったことを示している。
屋根のない頭上には空が青く伸びていたが舞い散る粉塵に視界を遮られ、地面はさらにもうもうと立ち込める煙でよく見えなかった。
しかし、広間の中心には確かに横たわる人影がある。
アスフェルは緊張でこわばった足を強引に中心部へ運んだ。


ふたりが折り重なるように倒れ伏している。
ひとりは知らない少女と、その下に庇われるように、ずっと探していた彼が。
「ルック……!!」
膝を付き、無心に手を伸ばす。
ルックにかけられていたらしい大地の守護の魔法がばちんと音を立てたけれど、弾けた皮膚には目もくれずその頭をかき抱いた。
固く閉じられた瞳、色のない唇、短くなった髪。
心臓と首に手を当ててみるとわずかに振動が伝わり、薄く開いた口に近づけた頬はかろうじてかすかな吐息を感じた。
「ルック……」
アスフェルの目に涙が浮いた。
「やっと見つけた……」
痩せ細った首に顔を埋めて、体温を移すように強く抱きしめた。


ルックの体内からはあの膨大な魔力がすべて失われている。
このままではすっからかんになった身体は衰弱死してしまうだろう。
逡巡ののち、アスフェルはルックの歯列を指で軽く押し広げた。
喉を持ち上げて気道を確保し、口腔に覆い被さるように自身の唇を当てると、人工呼吸の要領で少しずつルックに魔力を分け与える。
心配していたソウルイーターの反発は起こらないようなのでしばらくそのまま続けると、ルックの胸がさっきよりも大きく上下し始めた。
顔色は戻らないが、いくぶん呼吸が楽になったようだ。
規則的になってきた呼吸を確かめてアスフェルはようやく顔を離し、ルックの髪をそっと撫でてみた。
そういえばこれも十五年ぶりかと、昔とは異なるその感触に感慨が湧く。
かさかさに乾いたルックの唇がただ悲しく、競り上がってくる何かをこらえた。





隣の少女も何とかまだ生きているようだから、ふたりを担いで出るしかあるまい。
本音を言えば余計な少女は放っておきたかったが、自身の死を厭わずルックだけに強力な大地の魔法をかけたのであろうこの少女を、生きているのに打ち遣るわけにもいかない。
ここまで十五年かかったのだ、今さら苦労のひとつやふたつ増えたところでさしたる問題でもないだろう。
よしと息を吐き、アスフェルは背にルックを、脇に少女を抱えて立ち上がった。
ここに至るまでの長旅で、ルックがグラスランドで何をしようとしていたか、破壊者という通称とともに聞き知っている。
先程草原ですれ違ったアップルらが破壊者に対峙したという集団であり今回降りた宿星なのだろう。
彼らがまだ近くにいるようなら南は避けるべきだろうか。
アスフェルは先程会った真なる火の紋章を所有する少年を思い出した。
天魁星ではなかったようだが、悩んでいた風だった。
あの少年を見る限りでは、むしろ彼らの本拠地だというビュッデヒュッケ城に入る方が得策なのかも知れない。
とりあえずここから去ろうと背中のルックを背負い直して、アスフェルはできるだけ瓦礫の少ない道を歩き始めた。





十五年ぶりの再会。
俺は君を救えるだろうか。


ルック、君にやっと会えた。







「終戦」の続きです。
3プレイ時からずっと、3の内容を否定せずにルックを坊様と幸せにしたいと思って妄想していたので、3と辻褄が合うようにしています、多分。
(↑何回もプレイしたくないし攻略本も見たくないからあやふやなとこありますが…辛すぎる…)
3でいう第6章ラストの光はですね、今意識不明のふたりが幽体離脱してるという設定になっています!!(爆)

20050819