じゃっと炒めた豚肉に、ざく切りのキャベツと中太麺。調味料などソースくらいで手早く火を通し皿に盛る。
「アスフェル。夜食」
ルックは奥へ呼びかけた。
仕事がかさむのはある程度やむを得ない。特にアスフェルの忙しさときたら同じ社内でも部署の違うルックには想像もつかないほどで、毎日のように家へ仕事を持ち帰っては夜遅くまで取り組んでいる。
体にはよくないかもしれない。かといって、あまり根を詰めすぎるのもきっとよくない。だからルックは夜食を作る。それを隠れ蓑にして彼へ休憩を促してやるのだ。
素直に休むよう言ってやれないのはルックならではだ。でもアスフェルはそれくらいとうにお見通しで、ルックがキッチンへ向かえば仕事を中断する準備を始めてくれる。
そういう、ある種息の合った関係が、ルックにはどうしようもなく嬉しい。
「今日は焼きそば?」
アスフェルは肩と首をぐるぐる回しながら席へ着いた。ずっとパソコンに向かっていたから凝ったのだろう。揉んでほしそうなのはよく分かっている。……応えてなんてやらないけれど。
「手抜きだとかまた焼きそばとかって文句はまさか言わないよね」
「とんでもない。むしろ俺には愛で眩しく輝いて見える」
「麺がてかってるっていう嫌味? ちょっと油入れすぎたくらい見逃そうって気にならないわけ?」
「そんなところも愛を感じるなあ」
「……冷めるよ」
「その前にいただきます」
アスフェルは嬉しそうに箸を掴んだ。もちろんルックは食べないので向かいに座って麦茶を含む。
この瞬間が、好きだ。
一片たりとも表情に出さず、ルックは心で愛しんだ。一口食べて、おいしそうな顔をするのがすごく好き。目の縁に笑い皺の寄るのがすごく好き。もっと手間隙かければよかったと少しは思ってみたりもするが、あんまり意欲を見せるのも腹立たしいから、これくらいでちょうどいいのだ。
ルックは頬杖を突いて笑った。
――手のひらで口許をちゃんと隠して、あいつに気づかれないように。