ティキの瞳を射抜くぐらいに睨めつける。
彼ときたら恐ろしく残虐、憎しみも怒りも枚挙に暇なく、そして同じくらい……真逆の頂点も占めている。
アレンは、ここが薄暗い倉庫の奥だと失念するほど、強くティキの瞳を見上げた。同じくさっきまで失念していた、吊るされた腕、縛られた鎖がじゃらりと重く上で鳴る。
「貴方って人は……!」
「何だ? 少年」
「そうやって僕のことを気紛れに構って、抱いて、でも結局僕は貴方の大好きな快楽のうちのたった一つでしかないくせに……!!」
「そうだな」
「だけど、ッ痛……ぁ」
言い募るアレンは気紛れに摘まれた突起へひゅっと息を飲む。わざと激しく爪弾かれ、目尻に思わず涙が浮かんだ。
痛みだけじゃない。それが悔しい。こんな男の言いなりになって、抗うどころか尻尾を振らんばかりに悦ぶ、何て浅ましいエクソシストだろう。曲げられなかったはずの意志さえティキの前ではあっさり霧散。悔しい。ちらつく仲間の顔、殺された仲間たち、アレンへ接するのよりもっと嬉しそうに返り血を舐めるティキの舌つき。わざとたくさんの血を浴びてみたり、またはどれだけ早く死に至らしめるかをカウントしてみたり、悪趣味などという生易しい表現では済まぬ狂気がティキに宿るのをアレンはよぅく知っている。目と、心に深く刻まれている。
「でも、俺ナシじゃいられないんだろう?」
ティキが嫣然とアレンを眺めた。
冷めきった眸子と、刹那的に見せる優しい、ひたすら優しいだけの微笑が、アレンの中枢を容赦なく根こそぎ抉り取ってゆく。
――ぞくり、と背筋を駆けのぼる痺れ。
アレンは歪む声を発した。
「抱きしめてって頼んだら……そうしてくれるんですか……?」
「もちろん、今ならいくらでも」
「明日は? 僕がマナのことを思い出して眠れない夜は、貴方が欲しくてたまらない夜は?」
「いちいち訊くなよ。分かりきったことを」
「だから嫌なんです。――僕の、独り善がりだ」
ティキがにやりと蠱惑的に笑む。それすら愛しくて胸が震える。己への惨めさはいっそう膨れ、伴ってティキへの憎悪も膨らみ、されどコカインよりも強烈に、泥沼に。
「……好き。貴方が好きなんです。大好き、愛してる、……もう、嫌なのに……ッ!」
鎖が手首に食い込んだ。生温かさがどろりと腕を伝い落ちてくる。そうまでしても必死に顎を突き出して、ティキへ唇を近づけたのに。
望むものは、なかなか得られなかった。