オレがいつもあンのクソ王子を目で追っちまって仕方ないのは、それは本当に仕方がないんだ。
だって一応カゲムシャなわけだし、それなりにあいつの喋り方とか行動パターンつうやつなんかを見て覚えとかなきゃならない。
別に、普段のカノンをよく知らないやつを騙すんならこの顔だけでじゅーぶんなんだぜ? 今カノンが妹さんを取り戻そうとしてる相手、ゴドウィンのやつらなんかはカノンのことをほとんど知らない。だから、ただ影武者をやるだけだったらカノンになりきる必要はねぇんだ。
でもオレは極めたいなと思ってる。
最初はすげぇ単純な理由からで、……今は、もうちょいいろんなことも考えている。
最初の理由っつうのはもうあれだ、なしだ。
結局いつも見破られんだからどーしよーもない。リオンにとってカノンはそれほど特殊な存在なんだろう。騙したがるオレがむしろ情けない。だからよ、そんなダサいことはやめだ。
んでオレが今テツガクしちゃってんのは、はたしてこの城の何人がカノンの姿を知っているのかっつうことだ。
姿っつっても、外見だけならいくら阿呆でも自国の王子を見紛うやつはそういない。心底阿呆のリヒャルトくらいだ。
オレの言いたいのはカノンの内側、性格やカノンらしさっつうやつで、もしオレがカノンになりすましてカノンらしからぬことを言ってみた場合、どれほどのやつがそれを見抜くかっつうことだ。別にオレだってとんでもないことを言うわけじゃないから、結局カノンなら言わなさそうだけど一般的にオカシくない意見ってのを言ってみる。
反応は実にさまざまだ。
一般兵はほとんどだめだ。それは仕方ない。カノンと親しく話す機会もないやつに、カノンとオレの見分けをつけれるはずがねぇ。
そんでボズやダインもだめだ。あいつらが見てるのは「ファレナの王子」であって、生身のカノンを深く知りたいわけじゃない。オレなんかにゃぴんとこないが、部下には部下らしい付き合い方ってもんがあるらしいぜ。そこにカノンの人柄を知ることはあんまり必要じゃないらしい。
オレにはンなことわかんねーけどな。オレはダチになるかならねぇか、手下だって突きつめりゃオレの言うこと聞くダチだ。軍人なんかたぁ訳が違う。
で、問題だったのは、あいつ。カノンがホの字になっちまってる、あのスカした金髪野郎の時だった。
最初は向こうから声かけてきたんだぜ! で、おうじーつって寄ってくっから、やあカイル元気かいなんつって、王子さまっぽくやってみたんだ。
豹変したのはその次で、オレもよ、カノンがいつもうじうじしてんの見てるわけだし、ちったぁいいだろとか思ってよ。カイルの腕を、触ってみたんだ。ほんとにちょっとだぜ? つんとかちょんとかいうレベルだぜ?
でもあいつは気づいちまった。「王子のふりしちゃだめですよー」って、顔色ひとつ変えないまんま、オレにほわんと笑いやがった。
何で気づいたんだろう?
オレは夜通しうんうん悩んで、フェイレンにキモいだの耳元でぎゃんぎゃん騒がれて、ようやく翌朝気がついた。
カノンはめったに、他人へ触れない。
オレがあいつをカンサツしまくるになったのはそっからだ。
要するに、言動とかだけじゃなくって、カノンの生い立ちとかトラウマとか心に抱えてるバクダンだとか、そういうの含めてなりきることが大切なんだ。それが「演じる」ってことなんだろうなと、オレは影武者なりに考えている。
でよ、なりきってわかったかもしんねーことがひとつ。
カノンはぐだぐだに怖がりだ。
これ以上は教えてやらねぇ、なぜってオレのセンバイトッキョっつうやつだかんな。
オレはもっともっと技をみがいて全員騙せるくらいになるぜ。そんでみんなに言ってやるんだ、お前らどれだけカノンのことを見てるんだってな。オレはテツガクしちゃってっからあいつのことならお見通しなんだぜ、ざまあみろ! 貴族がどうとかカンケーねーんだ!
な、きもちよさそーだろ?
つうことでオレは毎日あいつを目で追っている。別にコイとかアイとかそーゆー感情持ってねぇから、そこは安心してほしい。
……今後どーなるかは、わかんねぇけど。それもテツガクするまでだ。