「…にゃん」
「――何だ、その新たなキャラ作りは」
キキョウが両手を軽く握って頬の隣にかわいく掲げ、膝をゆるく折り曲げて、上目遣いでテッドを覗く。食堂の隅でぼそぼそと早い朝食を摂っていたテッドは、口へ入る寸前の饅頭を危うく取り落としかけてしまった。
「…ねこ」
テッドの歪な沈黙を問いと捉えて答えてくれる、キキョウは間違いなく素面そのものの顔をしている。真剣に、真面目にこれをやっているのだ。
これだからこの船は。……否、人間ってやつは。
馬鹿なキキョウで遊ぶ人間、そこから群れていなければ生きてゆけない種族としての哀れな人間を連ねて思い、テッドは浅く息を吐く。
人間は一人じゃ生きていられない。だから誰かと関係を持ちたがり、誰かの特別になりたがり、誰かに理解してもらいたがり、そして。
ソウルイーターは、そうやってテッドが心開きかける人間どもを情け容赦なく狩って喰らうのだ。
ソウルイーターを疎むことと自身を厭うこと、そして周りの人間すべてを疑うことはテッドにとって単一の業と化していた。一筋の光る綻びが目の前の少年からもたらされたのはつい最近のことである。
「誰の命令だよ」
「…んっと、マオ」
シュミ悪ぃ。ぞっと感じた鳥肌を何とか舌の根元でこらえる。口に出してしまったならば、傷つけられるのは馬鹿で純粋なキキョウの心だ。誰かのせいだと言い返せもせず独りで痛みを抱えてしまう。
テッドがキキョウにしてやれるのはただ一つ。キキョウに、最も一般的な友情の形を、実地で示してやることだ。テッドはマグロ饅頭を半分に割りつつほやんとしているキキョウを諭す。
「やめろよ」
「…ん」
「普通の方がいいからさ」
「…うん」
ほら、と饅頭を半分手渡す。キキョウはしばらくじっと見つめて、思い出したように生唾を飲んだ。腹が減っていたようだ。そういえば、今ベッドから起きてきた、という様子ではない。注意深くテッドから饅頭を受け取る手つきもいやにごわごわとしている気がする。
だがそれ以上踏み込むことは躊躇われ、テッドは半分になった饅頭を無言で齧ることにした。けっこう美味い。これと茶粥で一日を始めるのがテッドの密かな楽しみだ。
「…はんぶんこ」
キキョウが頼りなく微笑んだ。
何度目だっけ、とテッドはぼんやり考える。そういえばいつも食い物を分け合っている。他にキキョウを喜ばせる方法が思いつけないからであろう。
待てよ。それって友情にならないんじゃねえか。
心に自身を叱咤して、テッドはわずか苦笑した。結局テッドも人付き合いがうまくないのだ。傷の舐め合いみたいになったらそれこそずっと趣味が悪い。他人のことを言えた義理ではないだろう。思わず自嘲が視線に混ざる。
応じるようにキキョウはあどけなく目元をゆるめ、隈を朝日に浮かばせた。