「…ぬるい」
「僕は熱いお湯が好きじゃないの。嫌ならあいつと一緒に入ればいいじゃない」
「…アスは今日入んないって」
「何で」
「…ルーが怒ってるからって」
「それとこれとは関係ないでしょ」
「…えっと、ルーが怒ってるから、何だっけ、ド……ドレイン? の、紋章を、狩ってくるって。ここらへんは、クモの魔物がたくさんいるから」
「……馬鹿だね、あいつ……。また夜通し一人で魔物退治する気なんだ」
「…ルー、楽しい?」
「はぁ? あいつが僕は怒ってるって言ってたんでしょ? 怒ってるつもりはないけど。少なくとも楽しくはないよ」
「…でもルー、笑ってる」
「……!!」
「…ルーとアス、なかよしで、いいな」
「別に仲良くなんか全然ッ」
「…あのね、アスね、ほんとは怪我してたね」
「――知ってたよ」
「…でもルーが怒るからって。……ね、ルーは、何で怒る?」
「……あんた、あいつから何でも聞き出してくるね」
「…?」
「あのねキキョウ。僕は怒ってないの。嫌なの」
「…??」
「キキョウは、あいつが一人で旅してて怪我なんかすると思う?」
「…しない、と思う」
「じゃあ僕のせいじゃない」
「…そうなの?」
「あいつは違うって言うけどね。それでも実際、僕が体力鍛えれば済む話もあるでしょ」
「…それは、ルーだし、無理じゃない?」
「でしょ。自分でも分かってるよ。あいつも承知してる。けど嫌なものは嫌なわけ」
「…うん」
「……あいつの怪我、ひどかった?」
「…ううん、かすり傷。おくすりで治った」
「そ」
「…ルー、アスが嫌い?」
「何で」
「…嫌って」
「嫌と嫌いは違うよ」
「…わかんない」
「嫌いじゃないけど嫌なとこはいっぱいあるの。僕だって分かんないよ、こんな苛々したり――」
「…ル、ルー?」
「……あんたにだったら、気安く凭れられるのにね……」
「…えへへ」
「何笑ってんの」
「…ルー、細い」
「あんた意外と筋肉ついてるもんね」
「…アスのがすごいよ」
「多分キキョウの方が腕力はあるんじゃない? あいつはバランスよくついてるけど、あんたは割と力任せで斬ってるでしょ、だから腕にばっかり筋肉がついてる」
「…あのね、剣を教えてくれたひとがね」
「その紋章の前所有者?」
「…うん。たいちょ。たいちょが、剣は技術より力って」
「暴論だね」
「…うん」
「……余所から見たら暴論なんだろうけど。矛盾してるけど。……僕からは、折れないから」
「…ん」
「あいつは一晩そうやって憂さを晴らして、明日ケロリと何もなかったような顔をするんだと思うけど」
「…うん」
「あのさ。あんたがもし今晩あいつのとこへ行ってやるって言うんなら、何かのついでにでも伝えといてくれない? 僕は怒ってないって」
「…うん」
「どうせ、そんなこととっくに知ってるって笑いながら返してくるよ。でも一応」
「…アスが言ってた。ルーが、何か言付けると思うって」
「やっぱりね。……じゃあ、あいつをびっくりさせてやろうか」
「…なに?」
「アスフェルに伝えて。――」
「…え?」
「……」
「…ルー」
「ソコ、洗っちゃ駄目だよ。あいつにそのまま渡さなきゃ意味がない」
「…ルー、くちびる、やわら」
「先に! 上がるから! もたもたしてないでさっさと届けといてよね!」