こてん、と背中に温かい感触。
かすかに規則正しい寝息。
「……アスフェル?」
もし寝ているのなら起こさないよう、できるだけ小さく絞った声で呼んでみる。反応はない。深く息を吐いたら横隔膜の振動が背中を伝ってアスフェルへ向かうのが分かり、ルックはごくんと呼吸を止めた。
「……」
「もう、寝た?」
「……」
珍しい。アスフェルが自分より先に寝てしまうこともそうだが、何と言ってもこんな風に食後突然居眠りしてしまうことなど滅多にない、きちんとした躾の染み込んでいる男だ。余程疲れていたのだろうか。
――それとも余程、安らいで?
かあっと頬が火照りだす。たかがこんな、些末事で。
背中に当たる肩の幅広さ、意識すればするほどずしりと重く圧し掛かる。
体勢を変えたら起きるだろうか。起こさず姿勢をずらせないだろうか。このままでは本を読むこともままならないし、どうせなら背中ではなく太股の上で眠ってくれれば、こちらとしても楽なのに。
(それって、……膝枕?)
自覚したなら羞恥は倍増、よりによって自分がこんな偏狂のために頭を支えてやってこっそり撫でたりなんか、してみて。してみたい。いつもアスフェルがしてくれるように、毎日残業続きで疲れてるアスフェルが、明日も明後日も頑張れるように。
(……寝てる)
すうと気持ちよさそうな息が聞こえる。背中を伝って心地よく。
「……アスフェルの、ばか。馬鹿」
相手の意識がない時に限って素直になれる己を戒め、それでもどうせならこっち向いて寝てよ、と不満は消せない苛立ちに、ルックはぼやきを口にした。
無理矢理体を反転させて、頭をかき抱くのは数分後。