なれあいより刺激を





 普段魔界にいるはずの友は、人んちの玄関を二階の窓だと決めつけてでもいるらしい。気配を絶つ気はないようだから居ることはすぐに分かるのだけど。神出鬼没な友である。
「だからね、飛影。どうして貴方はマズいことがあった時だけ俺のところに来るんですか」
 マズいことが何であるかはまだ聞かない。どうせ彼のことだ、去り際に置いてゆくだろう。蔵馬は無造作に腕を組み、自室のドアを閉めたところへ寄りかかる。
「キサマの方が適役だろう」
「……貴方よりは、ね」
 魔界に迷い込んだ人間を「厚遇」するのが今の飛影に与えられた任務である。無論、嫌々やっているだろうことは今さら言及する間でもない。なので、少しでも厄介な問題があれば、自分が苦労して片付けるよりこちらへ押しつけようとするのだ。確かに飛影が処理をするより効率ははるかに良いだろうけど、蔵馬にとっては面倒くさいと多少呆れざるを得まい。
「にしても、三年間、ちゃんと頑張るおつもりなんですね」
 妙なところで手を抜くくせに根本的には手を抜かない彼のやり方がいくぶん微笑ましいのも事実だ。彼はすこぶる単純である。
 飛影に限らず、自分の周囲は得てしてそういう人物が多い。もっと端的に言うと、蔵馬が信頼を寄せられるのは根の単純な人柄なのだ。複雑なのは自分一人でもう充分だと思っている。だから自分は冷静なままでいられるし、また、彼らのシンプルさを見習って、心のままに動くこともできるのだ。論理的ではない、という一点にある種の刺激を求めてもいる。
 だが揶揄されたと思ったのだろう。途端にむっとした飛影は、早や窓枠へ足を掛けた。
「飛影、用件は、……」
 急ぎ問いかけてすぐ気づく。足だ。つい先日は躯に腹部を吹っ飛ばされたはずであったが、次は足をやったらしい。軽く引き摺っている。
「もういい」
「良くないでしょう。それくらいなら五分もあれば薬草で治せますから」
 拗ねたのか、本気で出て行こうとする飛影の背中を、蔵馬はとっさに妖気で制す。駆け寄って強引に腕を手繰り寄せ、バランスを崩す飛影を受け止めようとしたその時だ。
「――れ、飛影じゃねぇか」
 窓の下を通りかかるは、隔世遺伝の魔族であった。


後半に書きたかった肝心の蔵幽シーンは断念…。もういいよ蔵飛で…orz
20071028