小さな祭り





 キキョウがとてとてと頼りない小走りで先行するのを、少し遅れて歩くテッドは、中学生にしては大人びた眼差しで見守った。
 狭い公園の木から木へ赤や青のストライプに彩られた提灯が等間隔にぶら下がり、黄ばんだ光でどこか懐かしい昭和の雰囲気を作り出している。右隅にはビニール地の屋根に支柱は鉄パイプの簡素なテント。屋台と呼ぶにはほど遠いながら、肉を焼く煙が提灯に淡く揺らめく風情はどうしてか様になっていた。
 町内の夏祭りである。
「けっこう賑わってんなー」
 テントの前へ立ちすくむ義理の弟に追いついて、テッドはテントを一睨した。焼き鳥にフランクフルト、かき氷、飲み物はビールとジュースが一種類ずつ。お世辞にもメニューが豊富とはいえないだろう。だが公園が狭く屋台の数も少ないせいで、テントの前には人だかりができていた。
 テッドはポケットに財布の存在を確かめてからキキョウの目線を追ってみる。
「お、スーパーボールすくい!」
「…?」
「れ、お前そこ見てたんじゃねぇの? スーパーボールすくい」
「…ん」
「あぁ、知らね? スーパーボールっつって、地面に落とすとこうな、」
 こう、とテッドはボールの跳ねを手のひらのジェスチャーで表現する。だがキキョウは首を傾げた。奇妙な反応にテッドもわずか首をひねる。
 子どもなら、誰もが一度はあの小さいボールを鞠突きのように足元へ落とし、予想外の跳ねへ驚いた記憶があるだろう。極端に断じてしまえばこの経験は常識だ。それをキキョウが触れたどころか見たことすらなさそうな反応をするというのは、――つまりいつものことである。キキョウはちっとも普通の子どもらしくない。
 テッドは大声に紛らした。
「説明するよか自分でやりゃあ早いだろ。ほら」
「…え」
「おっちゃーん! 百円ね!」
「…あ」
 さっさと料金を払ってしまうと、テッドは強引にキキョウの背中を押してやった。水に流れるスーパーボールは白熱灯に照らされてどの原色も鈍く黄ばんだ色に見える。だが生き物のようにてかっている。浮きつ沈みつ、彼らは軽快な動作で水槽を漂っている。
 キキョウはおろおろと周囲を見回し、網でボールをすくう隣の子どもをじっと見て、テッドの方へ振り返り。
 テドに、と微笑んだ。


自治会の夏祭りを見ながら妄想。
20080823