やにわに額を引き寄せられて。
来る、と思った唇が、触れてこなくて戸惑った。戸惑うくらい、アスフェルの甘やかしに慣れている。気づけば途端に赤らむ頬をどうも自力では止められなくて、ルックはきゅっと両の奥歯を噛み締めた。
やがて額にかすかな感触。アスフェルの鼻先。唇でなく。
「ルック」
おでこが熱い。力の入るこめかみにアスフェルの指がするする滑る。猫毛を梳いて流れゆくのが、まるで最初からルックの髪とともにあったようにすっかり馴染んでしまっている。
髪が好きだとアスフェルは言う。だからできるだけ切らないで、と。本当のところはばっさり切ったあの再会時を彷彿とさせたくないからだろうが、アスフェルが言うなら髪は切れない。肩にかかって邪魔なのに。
反射的に固く瞑っていた瞼、ルックはゆっくり呪縛を解いた。薄目を開けるとすぐ眼前にアスフェルの微笑む唇があった。
(……どうしよう)
「ルック」
掻き寄せたい、と思ったことを、アスフェルは察してしまったろうか。行き場所がなくて拳固めてただ垂らしてるルックの両手。腕から疼く。奥歯まで疼く。そわそわと。
「好きだよ、ルック」
(……どうしよう)
その声が好き。綺麗に動く唇も、ルックより目立つ喉仏も、鼻も目も全部、アスフェルのものだと思っただけで。
好きだ。と言ってしまいたい。
(……どうすればいい)
けれど言えない。
(……どうしよう)
アスフェルがふっと少しだけ多く息を吐く。するとすぐさま、吹きかかる皮膚に鳥肌の立つ心地がした。――嬉しくて、だ。
ぎりぎりまで出かかるものをルックは必死で抑えつける。今度は目の縁まで疼く。
「ルック」
「……いい加減に、してよ。アスフェル」
素直になれないもどかしさゆえに火照るばかりの両頬は、アスフェルに見えていないだろうか。
疼く心の隅っこで、ルックは少しだけ願った。