「大丈夫?」
「もーちょっと!」
下から投げられる声へ怒鳴り返し、ロイは右手をうんと伸ばした。左手は幹へ引っ掛けていて、両足は太目の枝にそっと乗せている。枝が折れては叶わないので思うように身動きが取れず、あと少しで届きそうなのに足を踏ん張るのが躊躇われ、ロイは小さく両眉を下げた。くじけそうだ。
たかが小鳥一羽で何やってんだ、とはロイでなくとも呆れるだろう。だが王子の必死な形相を見ればそう無下にも断れなかった。だからパーティー内で最も身軽そうなロイがこうして木登りなんかしている。ロイはちらりと下方のカイルへ視線を送った。
――お前が見つけたりなんかするから…。
カイルは通じていないのか、気さくな笑みを上へ寄越した。
「ロイくん、落ちないよーにねー」
「わぁーってるっつーの!」
カノンはあんな男のどこがいいんだろうか。
まだ毛も生えていない小鳥を右手に乗せながら、ロイは再度手を伸ばす。女好きだしすぐちゃらけるし、誠実そうにはとても見えない。さっきだってそうだ。
この小鳥が草むらに落ちているのを見つけて、カノン以外の全員がこれは駄目だと諦めた。この高さを落ちて、または兄弟に蹴り落とされて、もし今生き延びたとしても次の機会に必ず死ぬにちがいない。諦めきれないカノンが飼ってやろうと巣へ戻してやろうと、どちらにしろ傲慢な人間のエゴでしかないのだ。
弱いものが死ぬのは自然の摂理である。それは無意味な死ではない。他の生き物に食べられ、吸収され、この大いなる自然を形成する輪の一部として巡る形態が変わるだけ。命は永遠に受け継がれるのだ。
カイルはちゃんと分かっていながらカノンへ小鳥を示してみせた。カノンは皆の予想に違わず小鳥を助けたいと述べ、おかげでロイは十メートル以上もある大木を登る羽目になっている。カノンが自分で登らないのはカイルに止められたからで、――いや、むしろ、止める前にロイが挙手するよう仕向けてさえきたのだ。
女王騎士とはそういうものか。
ロイは足をやや前へ出す。もうほんの数ミリで巣へ届く。左手を中指以外幹から離し、さらに半歩前で進んで……案の定、めりっと嫌な音がした。
「ロイ!」
遅ぇよ、王子。
足元が消え、体が揺れる。その弾みに小鳥がぽんと巣へ入ったのを目端に捉える。小鳥が無事ならまぁいいか、と自分らしくない満足感が脳をよぎったのも一瞬のことで、ロイはそのまま、まっすぐ地面へ落下した。