「ハ・ニ・ィ」
耳元へ囁きかけられ目が覚める。
「おはよう、テッド。珍しく早起きだね」
「たまにゃあお前を起こしてやろうと思ってよ」
妙にうきうきと笑む親友が、アスフェルの枕元をぎしっと軋ませアスフェルに覆いかぶさっている。厳しい残暑のようやく薄れ始めた早朝、窓辺に差す日が今日はどことなく柔らかい。
「今日の朝飯はグレミオさん特製シチューパイだと」
「それ、テッドのリクエスト? いくら涼しくなったとはいえ、まだシチューの季節にはほど遠いだろう」
「だからサラダに柚子シャーベット」
「また極端な」
テッドは満面に喜色を乗せて明るい笑い声を立てた。アスフェルもつられて微笑んで、ふっと今日を思い出した。
昨年の今日も、そして一昨年の今日も。テッドはやけに嬉しそうじゃなかったか。いつもより少しわがままになっていつもより少し構われたがる、今日、八月二十一日。いつもは兄貴風を吹かすテッドが急に幼い振る舞いをする。
(何かの記念日なんだろうか)
腕をぐいぐい引っ張り起こされ、寸暇も惜しげに寝巻きを着替えさせられながら、アスフェルは内心に首を傾げる。
知ったのは、彼が消えてからだった。